男はつらいよ

「男はつらいよ」は、山田洋次と渥美清が創り上げた、一大抒情詩である。その作品は27年間に及び、48作を世に輩出した。渥美清は68歳で亡くなったのであるが、晩年は病魔との闘いだった。彼のプライベートは全くベールに包まれたままである。数少ない個人的な付き合いは、早坂暁氏と黒柳徹子女史くらいだったと言われている。時々は句会に顔を出し俳句をたしなみ、その俳号は『風天』と称した。

私は古希を過ぎた。三世代(昭和・平成・令和)にまたがりこの歳まで生きてくると、社会とのつながりも多く、様々な人々と拘わってきた。おそらく何千人以上の人々との出会いがありその分だけ別れもあった。若い頃は感情を露わにして、時には激しい言動を繰り返した記憶がある。しかし、ここまで歳を重ねると感情をむき出しにして、人と接することは出来ない。いかに私の価値観や生き様や哲学と食い違いがあったとしても、あからさまな態度はとれない。感情を抑えるだけでなく、抑えていることを悟られるのさえも憚られる。エベレストよりも高いプライドを傷つけられようとも、ミシンの糸よりも繊細でナイーブな神経をズタズタにされようとも、冷静さを装うのである。男はつらいのである。

 男とゆうもの つらいもの
 顔で笑って 顔で笑って
 腹で泣く 腹で泣く

寅さんに会いたくなった…

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