数か月前だろうか、本屋に立ち寄って、ふと手にしたのが『畠山健二』氏の著書《本所おけら長屋》だった。
だいたい9時過ぎからが私の読書タイムである。理由はリビングのテレビ(4K)は奥様に独占される。録画してため込んだ韓流ドラマや中国ドラマをご覧になるから、私の出番はないのである。入浴を済ませ7種類のストレッチを終え、そそくさと2階の自室へと引き籠る。特に見たいテレビ番組もないので本と添い寝する。
ちょうどそれまで読んでいた本を読み終えたところだったので、さっそく買ってきた《おけら長屋》に目を通した。読み進んでいくと徐々に畠山ワールドに引き込まれていった。長屋は全部で12部屋あり、大家の別棟一棟、プラス共同トイレと共用の井戸があり、そこに住む店子達が織り成す悲喜こもごものドラマが展開されてゆくのである。
少しだけ店子を紹介しよう。米屋の奉公人万造・酒屋の奉公人松吉・通称『万松』の二人を中心に物語は進んでゆくのであるが、そこに左官の八五郎が絡むと、思いもしない方向に事は進み、混がっていくのであるが、最後はなぜか人間本来持っている優しさと情で収まっていく。笑いと涙の人情時代小説である。またそこに住む女性陣が素敵なのである。八五郎の女房お里を中心に、独り者のちょっと小粋なお染・たが屋女房のお咲・畳職人の女房お奈津。男連中に負けるとも劣らぬ逞しい江戸っ娘堅気のお姐さん達である。異色な人物としては剣術の使い手島田鉄斎。鉄斎も知らず知らずの間に、おけら長屋の住民に染まってゆく。
様々なジャンヌの本は読んだが、読みながらニヤッとすることはあっても、笑い転げる本はこれまでには出会ったことがない。おけら長屋はその連続である。特に《もりそば》の項は笑い過ぎて涙が出た。~超おすすめ~