もうかれこれ30年くらい前だろうか?定かではないが、お気に入りのスーツのズボンを何かの拍子で破いてしまったことがあった。捨てがたく何とかならないのかと思っていた時、ある人が紹介してくれたのが、『佐々木かけつぎ店』だった。姫路駅の東・北に位置し、遠慮がちに《かけつぎ》という看板がかかっており、ともすれば見過ごしてしまうほど小さなお店で、当時40歳くらいだったのだろうか、女性一人でかけつぎの仕事を行っていた。
持っていくと、住所と名前と連絡先をメモ用紙のような紙切れを渡され記すと「1週間後に来てください」と言われた。代金は?問うと、出来上がった時でいい、とのこと。半信半疑で1週間後に行くと、その仕上がりは見事な出来栄えだった。代金はかなり高額だったと思うが、高いと言う感覚は湧いてこなかった。まさしく職人技である。それからすっかりファンになり、何かの時はお願いするようになった。
ところが数年前お願いしようと思い尋ねてみると、伝言のような張り紙がしてあり、《事情により閉店します。ご用命の方は下記連絡所に電話してください》と。早速連絡してみると、場所は市川橋の西詰で、その近所まで来てもらったら道路まで出て待っております、と電話口で男の人の声で言う。会って事情を聴いてみると、以前の人の弟にあたるそうで、姉は高齢になり体調も思わしくないので、私が引き継ぐことになったとのこと。
それから1度お願いをして今回で3度目になる。直りました、という連絡をいただいたので伺うと、「ポケットにこのようなものがあったので」と言い、茶封筒を手渡された。帰宅して開封してみると、なんと一万円札が入っていた。
思わず私は大声で、《イヨー!二代目》と叫んだ。
イヨー!二代目!!
